第二夜①~商人と鬼神の物語 その2~
前回のあらすじ
商人を助ける為におじいちゃん達が魔神に話を始めたよ。
夜になるとドニアザードは姉にせがみました。
「お姉さま、商人と魔神のお話の続きが気になって仕方ないの。ねぇ、お願い!」
「聞かせてあげたいのは山々だけど、王様のお許しがないと……(チラッ」
「俺も聞きたい(´・ω・`)」
「では喜んで」
シャハラザードは笑顔で語り始めました。
第一の老人の話②
尋常じゃない様子で泣き出した子牛を憐れに思った商人が牛飼いに殺すのを止めるよう命じた、そんな自らの体験を語る老人に魔神はすっかり夢中でした。
「この時、私の妻――つまりこのカモシカが人間だった頃です――がこう言ってきたのです」
老人はさらに続けました。
「ああ、あなた!この牛はまさに今が食べ頃だと思うわ。早く殺してしまいましょう」
そうは言われても一度可哀想に思ってしまった手前、どうにもその気になれなかった商人は結局そのまま連れて帰るように牛飼いに命じたのでした。
次の日、商人が休憩していると牛飼いがやってきて言いました。
「ご主人、すごい事が分かりました!これを聞いたら僕にご褒美をあげずにはいられないですよ」
「ふむ、言ってみろ」
「実は僕の娘は、ある老婆から学んだ不思議な力を使えるのですが、昨日ご命令通りに牛を連れて帰ったところ、急に顔をヴェールで覆って笑い、そして泣き始めたのです」
「まあ、お父様。他所の男性を家にお連れするなら先に教えてくださらないと!」
「なんだそりゃ、そんなもんどこにいるんだ。笑ったり泣いたり忙しいやつだなお前は」
「その子牛は、義理の母親から魔法をかけられたご主人様の息子さんよ!息子さんが来たと思ったら牛の姿で思わず笑ってしまったのだけれど、同時にこの方のお母様も牛の姿のままご主人様に殺されてしまったのが分かって私……」
牛飼いの話を聞いた商人はすぐに彼の家へ向かいました。
家で待っていた牛が父親の姿を見るなり喜んで転げ回っている中、商人は牛飼いの娘に言いました。
「頼む、その不思議な力で息子を元の姿に戻すことはできないだろうか。もしそれが叶うなら、貴女のお父上に管理してもらっている私の家畜や財産を全てあげてしまっても良い」
「ご主人様、ありがたいお申し出ですが、二つ条件をつけさせてくださいませ。一つ目は息子様との結婚。二つ目は犯人に私が魔法をかけるのをお許しいただく事です」
商人がこれを承諾すると、娘は小さな銅のたらいに水を張って呪文を唱えました。
「もしアッラーが貴方を牛として作ったならそのままで。もし魔法にかかっているのなら創られし形に戻り給え」
娘が牛に水をかけるとみるみる内に人間の姿へと戻りました。
商人は感動のあまり息子に飛びついて抱きしめました。
「お前とお前の母さんがされたことを私に教えてくれ」
そして、牛飼いの娘が言った通りのことを息子に告げられた商人は、すぐに二人を結婚させました。
「その後、もう悪さが出来ぬよう娘が魔法で私の妻をこのようにカモシカに変えてしまったという訳なのです」
話し終えた老人を見ながら魔神は唸りました。
「ううむ、なかなか不思議で面白い話だった。約束通りこいつの血の三分の一は許してやろう。だが、残りの三分の二は取ってしまうからどちらにせよ死んでしまうだろうがな」
すると、二匹の犬を連れた老人が進み出て言いました。
「では私の話も聞いてみてください。もし面白ければもう三分の一をお許しいただけませんでしょうか」
「ほほう、話してみるがいい」
第二の老人の話
「この二匹の犬ですが、どちらも私の兄なのです」
デジャブを感じる出だしで老人は語り始めました。
昔、まだ老人が若い頃。彼の父親が亡くなった時、遺産として遺された三千ディナール(今だと一億五千万円くらい)を兄弟で分け合い、彼は商売を始め、兄は隊商と共に外国へ旅に出てました。
弟が地道に仕事をしながら一年が経つ頃、兄が一文無しになって戻ってきました。
「兄さん、だからいきなり旅に出て稼ごうとするなんて止めておけと言ったじゃないか」
「そんなこと言われても一文無しになっちまったことには変わりないんだよ!」
逆ギレしながら泣き喚く兄に対して、弟は身なりを整えてあげたり食事の世話をしてあげたりした後で提案しました。
「この一年間で稼いだ利益をきっかり半分わけてあげますから、また一緒に頑張りましょうよ」
計算してみると、資本を除いた純利益は千ディナールもありました。
それを約束通りに兄と等分し、今度は兄弟揃って仕事に打ち込みました。
ところが、しばらくすると二人の兄はまた旅に出たくなり弟を誘い始めました。
「僕が旅に出たくなるほど二人は稼げたの?文無しになって帰ってきただけじゃないか」
ぐうの音も出ない正論を返された兄達はブツクサ言いながらも弟の心を動かす事は出来ず、堅実な商売を続けました。
それからというもの、毎年毎年実に六年もの間「旅に出て一発ドカンと稼ぎたい」としつこく言い続ける兄に根負けした弟はついに一緒に旅に出ることを了承してしまいました。
「けど、まず僕達の手元にある六千ディナールの内の半分は万一何かあった時の為分けておこう。残りそれぞれ千ディナールずつ持って商売に使おうじゃないか」
そう提案すると、各々調達した商品を船に積み込んで出発しました。
続く
第一夜~商人と鬼神の物語~
前回のあらすじ
やっと語りが始まるよ。
シャハラザードは言いました。
「昔、あらゆる国々を渡り手広く商売をし、莫大な富を築いた商人がいました」
商人とイフリートの物語
ある日、商人は馬に乗って取引の為に地方へ出発しました。
すると、段々と日差しが強くなってきて酷い暑さに襲われました。
商人は一本の木の下に腰をおろして休憩し、持ってきていたナツメヤシの実を食べ終えると、その種を遠くへ投げ捨てました。
すると突然、目の前に大きなイフリートが現れました。
イフリートは剣を振りかざしながら叫ぶように言いました。
「よくも俺の子どもを殺したな。貴様も同じ目に遭わせてやる」
訳が分からず動転するも、身の危険だけは強く感じ取った商人はやっとの思いで尋ねました。
「い、いったい私は何をしてしまったのでしょうか」
「先ほど貴様がナツメヤシの種を投げた時、ちょうどそこの空を通りかかっていた俺の息子の胸に当たったのだ。俺はすぐに息子の傍に来たが即死だった」
自分がとんでもない事をしてしまったと理解した商人はイフリートに言いました。
「偉大なる鬼神様、どうか頼み事がございます。私は多くの富を持ち、また妻や子どもがいる身ではございますが、家には人様からお預かりしている物もたくさんあるのです」
「だからどうした。それらを俺にやる代わりに命乞いでもするつもりか」
「いいえ、そうではございません。しかるべき物を、しかるべき人へお返しするまでお待ちいただきたいのです。それが済みましたら必ず貴方の元へ戻って参りますので、その時はどうか私を好きになさってください」
商人の覚悟を感じ取ったイフリートはそれを信用し、一時彼を解放してやりました。
家に戻った商人は、その後あらゆる関係を清算し、仕事の取り引きをつつがなくまとめていきました。
事の次第を打ち明けられた妻と子や親戚達は悲しみに暮れましたが、それでも商人は全ての準備を終えて約束の場所へと向かいました。
商人がイフリートと出会った木の下で待ちながらその身の災難を嘆いていると、一人の老人が鎖で繋いだカモシカを引き連れてやってきました。
「こんな所で何をしているんです?この辺りは魔神が出るとかで恐れられている場所だよ」
商人はこれまでに起きた出来事を老人に伝えました。
「そうまでしてここに戻ってくるなんてアンタはすごいお人だ。こうなったら結末を見守るまでは帰れないわい」
そう言うと老人はそこに座り込みました。
商人が老人と話をしながらさらに待っていると、今度は二頭の黒い猟犬を連れた別の老人がやってきました。
同じように疑問を持ったその老人に、同じように商人が教えてやると、やはり同じようにその場に座り込みました。
またしばらくすると、今度は一頭のムクドリを連れた老人が通りかかり、そして同じ事が繰り返されました。
そうこうしている内に、商人と三人の老人の前に、一陣の砂煙と共にあのイフリートが姿を現しました。
「さあ、約束通り俺の息子をお前が殺したように、俺が貴様を殺してやろう」
火花が迸る目を怒りに震わせるイフリートに恐れおののく一同でしたが、カモシカを連れていた老人が泣きながら言いました。
「ああ、魔神様!どうかお願いいたします。今から私がする、私とこのカモシカとの話をお聞きになり、もし面白いとか不思議だと思われたならこの商人の血の三分の一をお許しいただけませんか」
「ほほう、いいだろうご老人よ。お前の話が面白かったらだな」
かくして、カモシカを連れた老人は語り始めました。
第一の老人の話
老人は言いました。
「実はこのカモシカ、私の妻だったのです」
それは老人がまだ商人だった頃。
結婚してから三十年近くも連れ添った二人でしたが子宝に恵まれず、妾を取る事になりました。
すると、すぐに妾は子を宿し、男の子が産まれました。
その子が十五歳になる頃、商人は大事な取り引きの為に遠い地方まで出かけなくてはなりませんでした。
実は商人の妻は魔術や妖術に詳しく、嫉妬に駆られた彼女は商人が留守にしている間に妾とその息子を牛に変えてしまいました。
しばらくして商人が家に戻ると妻は言いました。
「あの妾と息子は行き先も告げずに家を出て行ってしまいましたよ」
悲しんだ商人でしたが、いくら探しても二人の姿は見つからないまま一年の時が過ぎました。
お祭りの日、商人が召使いから牛を連れてこさせ、捌こうとしました。
すると、その牝牛が涙を流しながら悲しい声を立てて泣き始めました。
自ら包丁を振る気になれず、商人が召使いにやらせると、不思議な事にその牝牛は肉や脂が無く骨と皮ばかりでした。
ガッカリした商人は召使いに言いました。
「次はよく肥えた牛を連れてこい」
ほどなくして一匹の子牛が連れてこられましたが、その子牛は商人の顔を見るや綱を切って彼の元へ走り出し、足元を転げ回りながら涙を流し始めました。
あまりの様子に可哀想に思った商人はもう一度召使いに言いました。
「別の牛を連れてきてこいつは残しておけ」
ここまで話したシャハラザードでしたが、外から日の光が差してくるのを見て口を閉じました。
すると妹のドニアザードが言いました。
「ああ、お姉様の声って本当に素敵!お話も面白くってずっと聞いていたくなるわ」
そんな妹のアシストにシャハラザードが答えます。
「ふふっ、これはまだまだほんの序の口よ。もし王様が私をまだ生かしてくださるのなら続きもお聞かせできるのですけど(チラッ」
「めっちゃ気になるやん……とりあえずお仕事行ってくる(´・ω・`)」
その日の昼間、もう自分の娘が殺されたと思っていた大臣は暗い気持ちで仕事をしていましたが、王様が一向に次の処女をと言い出さないまま日が暮れたので驚き過ぎて大変な事になったけどそれはまた別の話。
そして、第二の夜が始まったのです。
続く
プロローグ③~才女、シャハラザード登場~
前回のあらすじ
女性不信をこじらせすぎた王様が処女キラー(物理)になっちゃったよ。
今日も今日とて処女を連れてくるように命じられてしまった大臣でしたが、いくら探しても都には一人も見つかりませんでした。
さて、この大臣には二人の娘がいて、姉の名前はシャハラザード、妹の名前はドニアザードといいました。
シャハラザードはたくさんの詩や物語や歴史に精通し、またその語り口の美しさは素晴らしいと評判でした。
そんな彼女が大臣に話しかけました。
「お父様、何をお悩みになっているのですか?」
大臣から事の仔細を聞いたシャハラザードは言いました。
「お願いです、お父様。どうかその王様の元へ私を連れて行ってください。もしかしたら生きながらえるかもしれませんし、そうなれば他の女性達を救うきっかけになれるはずです」
驚いた大臣はもちろんシャハラザードの頼みを断りましたが、彼女の意思が固いのを見るとこう返しました。
「ろばと牛と、地主との間に起こった事がお前の身に起こってしまうかもしれんのだぞ」
「それはいったいどんな事でしょうか」
そして大臣は次のように語り始めました。
昔、妻子と共に莫大な財産を持っている一人の商人がいました。
彼はアッラーから鳥獣の言葉の知識を授かっていましたが、それは他人に内容を教えてしまうと命を失う秘密の力でした。
大河のほとりにある肥沃な地方に居を構えていた彼の家には一頭のろばと牛がいました。
ある日、牛がろばの小屋を見ると、上等な餌が用意されて綺麗に掃除された場所でのんびりと休んでいるろばの姿がありました。
「俺が畑に水車にと一日中こき使われている間に、君はその良い餌をおいしく食べてるがいいさ。たまのご出勤でもちょっと一走りするくらいですぐ帰れる。羨ましいもんだね」
「おいおい、そんなイヤミを言うなよ。友達じゃないか。いいかい、働きたくないなら俺の言う通りにするといい。」
ろばは牛に助言しました。
「君が次に畑に出されたらわざと転んで立ち上がらない事。そうしている内に牛小屋へ戻された後はご飯も我慢して食べずに病気のフリをするんだ。そうすれば休めるよ」
「なるほどそうか。早速明日からやってみるよ」
次の日、家畜係から牛が病気になっていると告げられた商人はこう返しました。
「ろばを連れてきて牛の代わりに働かせなさい」
商人は牛とろばの会話を影で聞いていたので、それがろばの入れ知恵による仮病である事を知っていたのでした。
散々働かされて疲れ切ったろばが小屋へ戻ると、一日休んですっかり元気を取り戻した牛がいました。
「君のおかげで存分に休めたよ。本当にありがとう」
しかしろばは牛の心からの感謝に冷たく言い放ちました。
「フンッ、親切が仇になったとはこの事だね。親切ついでに言ってやるけどご主人が言ってたぞ『あんな病気の牛はとっとと殺して食用にしてやろう』ってね」
慌てた牛はすぐに餌を平らげたり、主人の前でしっぽをフリフリ右往左往して元気なところを必死にアピールするのでした。
もちろんそれらの会話も聞いていた商人は牛の滑稽な姿に大笑いするのでした。
それを見ていた商人の妻が尋ねました。
「貴方、何がそんなにおかしいの」
「ああ、すまん。それを言ったら俺は死んでしまう」
「なによそれ。わかったわ、私の事を陰で笑っていたから言えないんでしょう」
すっかりへそを曲げてしまった妻に困り果てた商人はついに全てを打ち明けて死ぬ覚悟を決めたのでした。
商人が準備の為に庭で身を清めていると、家畜小屋にいた犬と威勢のいい雄鶏の話し声が聞こえてきました。
「ウチのご主人もだらしがないねえ。俺様なんて50羽の嫁さん持ってるが、我侭言う女がいたらきちんと叱り付けてやってるぜ」
「じゃあご主人様はいったいどうすればいいんだい」
「そんなのは簡単さ」
ここで大臣は話を止めてシャハラザードに言いました。
「お前が王様に無理な願い事をしたりすると、この商人が妻にしたような仕打ちを受けるかもしれない」
「いったいどんな仕打ちをしたのでしょう」
大臣は続けました。
「秘密を話して俺は死ぬ事に決めた。だが、誰にも見られたくないから一人で来て欲しい」
商人は太い木の枝を隠し持って妻を部屋に呼びました。
妻が部屋に入った瞬間、商人は部屋の戸を閉め切ると妻に飛び掛り持っていた木の枝で気を失わんばかりに打って打って打ちのめしました。
突然豹変した夫に対して妻は泣き叫んで許しを乞いました。
「すみません、すみません!私が悪かったです!」
妻は商人の両手両足に接吻をして己の行いを心から悔いました。
話を聞き終えたシャハラザードは言いました。
「それでも私は王様の元へ行かねばなりません。お願いです、お父様」
娘の固い決意を目の当たりにした大臣はそれ以上止めようとはせず、嫁入りの準備を整えて王様へと知らせに行きました。
その間にシャハラザードは妹のドニアザードに言い含めました。
「いい?王様のおそばへ上がったらあなたを迎えによこします。私と王様の"事"が済んだら、私が殺される前にこう言いなさい『何か不思議なお話を最後に聞かせて』と。アッラーの思し召しがあれば、この国の乙女達を救えるかもしれないわ」
大臣に連れられてきたシャハラザードでしたが、いざ王様が事に及ぼうとすると泣き出しました。多分演技です。嘘泣きです。
「妹に別れを言わせてください」
王様の許しを得てドニアザードが来ると、シャハラザードの首に抱きついてうずくまったまま離れようとしません。
なんだかムラムラきてしまった王様はそのままシャハラザードの処女を奪いました。
そうしてなんだかんだヤり終えると、おもむろにドニアザードが切り出しました。
「お姉様、このままお別れなんてイヤです!どうか最後に何かお話を聞かせてください」
「勿論、私もそうしてあげたいわ。でも、王様のお許しをいただけたらよ」
王様はその言葉を聞くと、近頃不眠に悩んでいた事もあり承諾しました。
そしてシャハラザードは次の話を始めました。
続く
プロローグ②~王様、女性不信になる~
前回のあらすじ
妃に浮気をされて心がアレになってしまった王様兄弟が旅に出た。
シャハリヤールとシャハザマン、二人の王様兄弟が旅を続けるていると海に着きました。そばに真水が湧く泉があったので休憩する事にしました。
二人が泉の水でのどを潤していると、海がにわかに荒れ始め煙が立ち上りました。そしてなんとその黒い柱が兄弟の方へ向かってくるではありませんか。
慌てた兄弟は泉に生えていた大きな木に登って様子を窺いました。
やがて泉にたどり着いた煙はモクモクと形を変え、頭に箱を乗せたムキムキマッチョな魔神になったのです。
木の上で震える兄弟に気付かない魔神が箱を開けると、中から美しすぎる(TVで言うあれではなくガチのやつ)乙女が現れました。
「おい、お姫様よ。ここなら人間共は誰も見ていないことだし、お前の膝枕で一眠りさせてもらうぞ。起きたらまた"可愛がって”やる。婚礼当日にさらってやったあの時のようにな。グヘヘ」
「おやすみなさい魔神様。この眠りがあなたにとって快いものでありますよう」
姫が小鳥の歌のような声で答えると、魔神はすぐに寝入ってしまいました。
必死に隠れる兄弟が、木陰の様子を窺っていると、魔神に膝枕をしていた姫がパッと顔を上げました。
姫はすっかり熟睡している魔神の頭を地面に降ろすと立ち上がってニヤりと笑いました。
「いるのは分かってるのよ。降りてらっしゃい!大丈夫、こいつはグッスリ寝てるわ」
すっかり魔神にビビりまくっていた二人は、声を出さずにジェスチャーで姫に伝えました。「勘弁してください><」
「グズグズしてないで早くしなさい!お望み通りこいつを起こしてけしかけてもいいのよ?この世の物とは思えない苦痛を味わいたいならそれでもいいけど」
乙女どころか実はドSだった姫に本気の”凄み”を感じた二人は恐る恐る降りていきました。
兄弟がそばに立つと姫は言い放ちました。
「さ、ヤるわよ」
「は?(´・ω・`)」
「アンタのナニでガッツンガッツン突いてきなさいって言ってんの」
「……よ、良かったなー弟。こんな美人さんとHできるってさー(棒)」
「いやいやいや、こういうのは年功序列でしょ。まずは年上である兄さんに譲ります^^;;;」
「魔神起こしちゃおっかなー」
「「是非ともヤらせていただきます!!!!」」
姫に忖度した二人は文字通り必死に腰を振りました。
事が終わり満足した姫は、持っていた袋から首輪を取り出して言いました。
「この首輪は貴方達みたいに、魔神が寝てるそばで私とヤっちゃった人からもらった指輪で出来てるの。今は確か~、570個あるのかな」
「お、おう。(この女、マジでヤベえ)」
「だからぁ、二人の指輪もちょーだい☆」
ドン引きする兄弟を物ともせず、二人から指輪を受け取った姫は魔神を指差して言いました。
「コイツ、よりによって婚礼当日に私をさらって閉じ込めたのよ。でもさしもの魔神も、女の情念ってやつの強さまでは知らなかったってワケ」
「魔神さんカワイソス(´・ω・`)」
自分達よりも酷い目に遭っているのがまさか魔神だったとは思わなかった二人の王様はすっかり頭が冷え、それぞれの国へと帰る事にしました。
シャハリヤール王は国へ帰ると、すぐ部下に妃とその奴隷達の首をはねさせました。
さらに、女性不信をこじらせすぎた王様は、大臣に毎晩自分のところへ処女を一人連れてくるように命じ、純潔を奪った上で殺すという所業をそれから三年もの間続けました。
娘を持つ国民は都からどんどん去ってしまい、ついには夜伽の相手が一人もいなくなってしまいました。
続く
プロローグ①~王様、旅に出る~
これから語られるのは、もう誰も覚えていないくらい昔のお話。
あるところに、ものすごい大国の王様がいました。たくさんの家来や多くの領地を持っていたのですが、ある日シャハリヤールとシャハザマンという二人の王子にそれらを譲りました。
二人は別々の王様となって国を治め、どちらも領民達からとても慕われる王様になりました。
20年程経った頃、王様が言いました。
「久しぶりに弟に会いたくなってきた。しばらくうちに遊びに来られないかなあ。大臣、ちょっと呼んできて」
「かしこまりました」
大臣は早速弟王の国へ向かいました。
無事到着した大臣が事の次第を説明すると。シャハザマン王はこれを快諾しました。
諸々の準備を終えたシャハザマン王は兄王の国へ出発しましたが、道中で土産を持っていくのを忘れていることに気付き、宮殿に引き返しました。
夜中の宮殿に戻った弟王が見た物は、黒人奴隷と浮気Hしている妃の姿でした。
「出かけたその日に間男連れ込むとかどうなってんだコイツの股と脳みそは!」
怒った弟王は剣を抜き、その場で二人の首を刎ね、そのまま兄王の国へと急ぐのでした。
国を飾り立てて盛大に弟を迎える準備をしていたシャハリヤール王は、彼の無事の到着を見て喜びに満ち満ちていました。
しかし、自国での出来事が頭から離れないシャハザマン王の表情は優れず、いつしかまともに食事も取らなくなってしまいました。
『ホームシックかな?』と勘違いする兄王でしたが、あまりに元気の無い弟に問いかけます。
「お前、せっかく来たのにどんどん元気無くなっていくけどどうした?」
「ちょっと嫌な事があってね。何があったかまでは言いたくない」
「そうなの?じゃあ何日か狩り旅行にでも行こうや。スポーツで暗い気分を吹っ飛ばそうZE☆」
「んな気分じゃないんだよ……しばらく放っといてくれ」
「(´・ω・`)」
弟にフラれたシャハリヤール王は仕方なく一人で狩りに出かけました。
兄を見送ったシャハザマン王が、窓から宮殿の広場をボンヤリ眺めていると、男女40人の奴隷達を引き連れた兄王の王妃が美人オーラを振りまいていました。
広場にある泉のほとりに着くと、面々は一斉に服を脱いで絡み合い出しました。イッツアRANKOパーリィ。
明け方近くまで続いたその宴を目撃してしまったシャハザマン王は心中で呟きました。
「こんな地獄絵図に比べたら俺の悩みなんてどーでもいいわ」
あまりにアレな物を見てしまいむしろ元気が出た弟王は食欲も戻り、塞ぎ込むのを止めました。
数日後、狩り旅行から戻った兄王は、食欲の戻った弟王を見て不思議に思いました。
「あんなに元気無かったのに何があったの?」
「元気が無かった理由は今なら話せるんだけど……元気が戻った理由は言えない」
そうして、妃に浮気された(さらに勢いで殺してしまった)話を打ち明けられたシャハリヤール王でしたが、やはりどうしてそれほどまでに落ち込んでいた弟王が元気になったのかが気になります。
「知らない方がいいって」
「いいじゃん教えてよ」
「……後悔しない?本当に?」
「マジでマジでw」
「お前の妃が奴隷達と40人の大乱交パーティ開いてたの見て自分の悩みの小ささを知ったからだよ」
「マジで?(´・ω・`)」
衝撃の告白に、シャハリヤール王は自分の目で見るまでは信じないとわめき散らしました。
「じゃあもう一回狩り旅行に行ったフリして確かめてみよう」
弟王の助言を受けたシャハリヤール王は、都の外でキャンプの仕度を済ませるとお供に言いました。
「今夜は俺のテントに誰も近づくな!」
こうして人払いをしてからこっそりと変装姿で宮殿で待つ弟王の下へ戻ったのです。
弟王と共に宮殿の広場を覗いていると、いつぞやと同じように兄王の妃が大量の奴隷達を率いてアレやコレを始めました。
あまりのショックに正気を失ったシャハリヤール王が弟王に告げました。
「もう王様とかどうでもよくなっちゃった(´・ω・`)」
「は?」
「一緒にどっか旅しよ。同じくらい酷い目にあった人を見つけられるまで。そうじゃないと俺もうダメになっちゃう」
「(もうダメになってる気がするけど……)分かったよ。どこまでも付き合ってやるよ」
こうして二人の王様は当ての無い旅に出ることとなりました。
続く
布団に入る前に(序文)
どうもこんにちは。えてきちというその辺にいる本好きです。
かなり前に某ブログでその日読んだ漫画や小説なんかを紹介していたのですが、ログインメアドとパスが分からなくなりあえなく放置の憂き目に……
その内また何か始めたいなと考えていたのですが、どうせ再開するなら今度は細く長く継続的に出来る物がいいかなと。
そこで、大好きな物語なんだけどやたら難しい言い回しのせいでいまいち薦めにくいと感じていた『千夜一夜物語』を現代語に書き換えて紹介してみようと思い立ちました。
この後はダラダラと説明が続くので、とりあえず読んでみようって方は次の記事へ飛んでください。オナシャス!
『千夜一夜』という物語
女性不信に陥った王様に、才女・シェヘラザードが夜毎色んなお話を聞かせるというメインストーリーを主軸に、恋愛・冒険・エロ・コメディ・SF・訳分からんやつ etc...本当に様々なジャンルの物語を楽しめる内容となっています。
『アラジンと魔法のランプ』『アリババと40人の盗賊』『シンドバッドの冒険』等々、誰しも一度は聞いたであろう超有名な物語達が、実は『千夜一夜物語』の中に含まれるほんの一部分だという事は意外に知られていないのではないでしょうか。(それでいて、これらの話はアラビア語の原典には収録されていなかったという訳の分からない事になっていたりするのですが……w)
人によっては某TCGで色々知ってる人もいたり?
どうしてそんなごった煮寓話集が現代にまで伝わっているのかというとざっくり以下の通り。
①むかーしむかし、ガランというフランスの学者さんが「なんかアラビアに面白いお話集があるから翻訳してみる」と研究を始めた。
②初版が完成してめっちゃ流行る。
③その後も現地の人とかから「こんな話もあるよー」と紹介されては「面白いから付け加えちゃおう。『千夜一夜』だしお話千個あるよね」とどんどん増やしていく。
④そんな感じで未だに完成したとも言えないカオスな物語が生まれましたとさ。
このブログのルール
- 原本として使用するのは筑摩書房「世界文学大系73 千一夜物語」(1964年初版)とする。(マルドリュス版)
- ブログ主が上記の本を読んでざっくり今の言葉に書き換える。
- コメント等でミスの指摘があった場合は記事内容に適宜修正を加える。
- 更新はブログ主が夜書ける時に行い、基本的には物語上の一夜毎で区切る。
以上、よろしくお願いします!