プロローグ③~才女、シャハラザード登場~
前回のあらすじ
女性不信をこじらせすぎた王様が処女キラー(物理)になっちゃったよ。
今日も今日とて処女を連れてくるように命じられてしまった大臣でしたが、いくら探しても都には一人も見つかりませんでした。
さて、この大臣には二人の娘がいて、姉の名前はシャハラザード、妹の名前はドニアザードといいました。
シャハラザードはたくさんの詩や物語や歴史に精通し、またその語り口の美しさは素晴らしいと評判でした。
そんな彼女が大臣に話しかけました。
「お父様、何をお悩みになっているのですか?」
大臣から事の仔細を聞いたシャハラザードは言いました。
「お願いです、お父様。どうかその王様の元へ私を連れて行ってください。もしかしたら生きながらえるかもしれませんし、そうなれば他の女性達を救うきっかけになれるはずです」
驚いた大臣はもちろんシャハラザードの頼みを断りましたが、彼女の意思が固いのを見るとこう返しました。
「ろばと牛と、地主との間に起こった事がお前の身に起こってしまうかもしれんのだぞ」
「それはいったいどんな事でしょうか」
そして大臣は次のように語り始めました。
昔、妻子と共に莫大な財産を持っている一人の商人がいました。
彼はアッラーから鳥獣の言葉の知識を授かっていましたが、それは他人に内容を教えてしまうと命を失う秘密の力でした。
大河のほとりにある肥沃な地方に居を構えていた彼の家には一頭のろばと牛がいました。
ある日、牛がろばの小屋を見ると、上等な餌が用意されて綺麗に掃除された場所でのんびりと休んでいるろばの姿がありました。
「俺が畑に水車にと一日中こき使われている間に、君はその良い餌をおいしく食べてるがいいさ。たまのご出勤でもちょっと一走りするくらいですぐ帰れる。羨ましいもんだね」
「おいおい、そんなイヤミを言うなよ。友達じゃないか。いいかい、働きたくないなら俺の言う通りにするといい。」
ろばは牛に助言しました。
「君が次に畑に出されたらわざと転んで立ち上がらない事。そうしている内に牛小屋へ戻された後はご飯も我慢して食べずに病気のフリをするんだ。そうすれば休めるよ」
「なるほどそうか。早速明日からやってみるよ」
次の日、家畜係から牛が病気になっていると告げられた商人はこう返しました。
「ろばを連れてきて牛の代わりに働かせなさい」
商人は牛とろばの会話を影で聞いていたので、それがろばの入れ知恵による仮病である事を知っていたのでした。
散々働かされて疲れ切ったろばが小屋へ戻ると、一日休んですっかり元気を取り戻した牛がいました。
「君のおかげで存分に休めたよ。本当にありがとう」
しかしろばは牛の心からの感謝に冷たく言い放ちました。
「フンッ、親切が仇になったとはこの事だね。親切ついでに言ってやるけどご主人が言ってたぞ『あんな病気の牛はとっとと殺して食用にしてやろう』ってね」
慌てた牛はすぐに餌を平らげたり、主人の前でしっぽをフリフリ右往左往して元気なところを必死にアピールするのでした。
もちろんそれらの会話も聞いていた商人は牛の滑稽な姿に大笑いするのでした。
それを見ていた商人の妻が尋ねました。
「貴方、何がそんなにおかしいの」
「ああ、すまん。それを言ったら俺は死んでしまう」
「なによそれ。わかったわ、私の事を陰で笑っていたから言えないんでしょう」
すっかりへそを曲げてしまった妻に困り果てた商人はついに全てを打ち明けて死ぬ覚悟を決めたのでした。
商人が準備の為に庭で身を清めていると、家畜小屋にいた犬と威勢のいい雄鶏の話し声が聞こえてきました。
「ウチのご主人もだらしがないねえ。俺様なんて50羽の嫁さん持ってるが、我侭言う女がいたらきちんと叱り付けてやってるぜ」
「じゃあご主人様はいったいどうすればいいんだい」
「そんなのは簡単さ」
ここで大臣は話を止めてシャハラザードに言いました。
「お前が王様に無理な願い事をしたりすると、この商人が妻にしたような仕打ちを受けるかもしれない」
「いったいどんな仕打ちをしたのでしょう」
大臣は続けました。
「秘密を話して俺は死ぬ事に決めた。だが、誰にも見られたくないから一人で来て欲しい」
商人は太い木の枝を隠し持って妻を部屋に呼びました。
妻が部屋に入った瞬間、商人は部屋の戸を閉め切ると妻に飛び掛り持っていた木の枝で気を失わんばかりに打って打って打ちのめしました。
突然豹変した夫に対して妻は泣き叫んで許しを乞いました。
「すみません、すみません!私が悪かったです!」
妻は商人の両手両足に接吻をして己の行いを心から悔いました。
話を聞き終えたシャハラザードは言いました。
「それでも私は王様の元へ行かねばなりません。お願いです、お父様」
娘の固い決意を目の当たりにした大臣はそれ以上止めようとはせず、嫁入りの準備を整えて王様へと知らせに行きました。
その間にシャハラザードは妹のドニアザードに言い含めました。
「いい?王様のおそばへ上がったらあなたを迎えによこします。私と王様の"事"が済んだら、私が殺される前にこう言いなさい『何か不思議なお話を最後に聞かせて』と。アッラーの思し召しがあれば、この国の乙女達を救えるかもしれないわ」
大臣に連れられてきたシャハラザードでしたが、いざ王様が事に及ぼうとすると泣き出しました。多分演技です。嘘泣きです。
「妹に別れを言わせてください」
王様の許しを得てドニアザードが来ると、シャハラザードの首に抱きついてうずくまったまま離れようとしません。
なんだかムラムラきてしまった王様はそのままシャハラザードの処女を奪いました。
そうしてなんだかんだヤり終えると、おもむろにドニアザードが切り出しました。
「お姉様、このままお別れなんてイヤです!どうか最後に何かお話を聞かせてください」
「勿論、私もそうしてあげたいわ。でも、王様のお許しをいただけたらよ」
王様はその言葉を聞くと、近頃不眠に悩んでいた事もあり承諾しました。
そしてシャハラザードは次の話を始めました。
続く